王道な博士の進路は、そのまま大学に残りポスドクを経て、助教授、准教授、教授への昇進を目指すことです。
しかし、中には学位取得後は民間企業で研究者として働きたいと考える人もいるのではないでしょうか?
民間企業への就職は、修士と比べて博士は厳しいと言われていますが、実は理系女子は有利だったりします!
なぜなら、政府が女性の社会進出を後押ししているからです。
そうは言っても、博士号を持つ理系女子は少なく周りに相談できる人がいないため、民間企業への就職に不安を抱いている人も多いと思います。
そこで、博士号を取得し民間企業に就職した私が、
- 民間企業に就職した理由
- 民間企業に就職して分かったメリット・デメリット
- 理系女子流!博士の就職必勝法
をお伝えます。
女性の社会進出や共働き世帯の増加など社会で活躍したい理系女子にとっては有利な時代になっていますので、しっかり就活の対策を練って憧れの就職先で働きましょう!
- 就職できるか不安な博士課程の理系女子
- 民間企業への就活法を知りたい理系女子
博士を持つ理系女子の就活は厳しい?主な就職先は?
博士の就職についてネガティブなイメージを持つ人が大半だと思います。
まずは博士の就職が厳しいと考えられる理由を1つずつ見ていきましょう。
原因が分かれば対策することは可能です。
博士の就職が厳しいと言われる理由
“博士 就職”と検索すると
- 博士 就職できない
- 博士 就職 厳しい
- 博士 人生終了
のようなネガティブワードが候補として並びます。
このことからも世間の博士課程に進学することに対する不安が伺えますね。
では、どうして専門分野のエキスパートである博士の就職は難しいのでしょうか?
いくつか理由はありますが、博士の就職が難しい主な理由は以下の4つです。
- 就職先の受け皿がない
- 専門性はあるが、視野が狭い
- 学位を取得できるか分からない
- 理系女子の場合、採用してもすぐに出産等で休みに入る可能性がある
就職先の受け皿がない
博士の主な就職先は
- 大学またはそれに準ずる研究機関
- 民間企業の研究職
となります。
大学に残って研究を続けようと思った場合、大学のポストに空きがある保証はありません。
また運良く、ポストに空きがあっても、全国から優秀な学生やポスドクが就職先を求めて集まってくるので、かなり厳しい戦いになります。
また助教授になっても任期がついている場合が多く、任期が切れると無職になります。
ポスドクはポストドクターのことで博士(ドクター)取得後に研究員として雇われている人のことです。
任期付きでかなり不安定な状態です。またお給料も年収200〜300万円程度と正社員になる場合より少なくなっています。
イメージとしては学生と社会人の狭間。
民間企業に就職する場合も博士の学生を採用する会社は数が限られています。
また博士の採用条件や就活スケジュールも企業によって異なっており、情報が不透明な点も博士の就職が難しくなる要因になっています。
専門性はあるが視野が狭い
博士というのは専門家です。
自分の専門分野に関しては知識も経験も豊富ですが、オールマイティーなわけではありません。
例えば、私は化学を専攻していましたが、化学のことなら何でも分かる訳ではなく重箱のすみを突くようなピンポイントでここならエキスパートといった感じです。
企業に就職する場合、その企業にとって有益な人材が欲しいのでそこまでの専門性は求めらていないことがほとんどです。また、学生時代から共同研究していた場合を除き、大学で行っていた研究と企業の研究が一致することはまずないでしょう。
つまり、博士取得者であっても企業に就職したら就職してから学士や修士の学生と同様に知識の習得から始まるので即戦力としては期待できないのが現実です。
即戦力にならないのに給料は高い
これが企業に就職する博士の評価なんです。
専門性を売りにして就職活動しようとすると厳しいです。
学位を取得できるか分からない
博士と修士の違いでも触れましたが、博士は3年間在籍したからといって学位を取得できるとは限らないんです。中には、4年、5年と研究を続けても学位を取得できないまま終わってしまう人もいます。
つまり、博士として採用されるためには就職活動をする時点で、学位を取得できる目処が立っている必要があります。
論文を執筆するまでにも研究成果を出し、考察をしてまとめて・・・と大変な労力が必要ですが、論文を投稿してもすぐに掲載されるわけではなく、レフェリーの審査を通過しなければいけません。
このレフェリーの審査も投稿雑誌や論文の内容にもうよりますが、スムーズに行って1ヶ月は見ておく必要があります。
周りを見ても論文掲載が学内審査前のギリギリの人が多かったです。
就職活動にもそれなりに時間がかかるので、学位取得と就活の両立は思っている以上にタイムマネージメントが大変なのです。稀に就職先が決まっていたのに博士号を取れなかったという人もいます。
理系女子の場合、産休までの期間が短い
もちろん、全員ではありませんが、可能性として「27歳で就職した後、30歳で出産したい」とすると産休までに2年ほどしかないことになります。
大学で任期付きの職に就きたい場合は運良く採用されたとしても任期が切れるまでに次を見つけることもかなり難しくなることが予想されます。
その点、企業は任期が切れることはありませんが、積極的に採用してくれるかは企業側の判断となります。
労働力が減るので採用したくないという見方もあります。
私はいずれは子供を産みたいと宣言していましたが、企業で採用されたので、一概に理系女子は不利とは限りませんよ
民間企業に就職した私の体験談
私は理系の中でも、理学研究科で化学を専攻していました。
当時の研究内容はいわゆる基礎研究で、はっきり言って社会に役立つものでもなければ企業との共同研究も一切ありませんでした。
つまり、学生時代に企業とのつながりはゼロです。
私が民間企業への就職を決めた理由
私が博士課程に進学した理由は、純粋に研究が好きという理由です。
学生時代は好きな研究を好きなだけやらせてもらい、とても恵まれていたと思います。
有り難いことに、所属していた研究室の助教授のポストが空くからと、指導教官から大学に残ってほしいと言われていました。ポスドクを経ずにいきなり助教授になれるのは、かなりのレアケースです。
しかし、私はその申し出を断り、民間企業へ就職することを決めました。
理由はいろいろありますが、一番の理由は研究が好きだったので、純粋に好きなままで終わりたかったからです。
研究者として大学で生き残ろうと思うと、どうしても権威を持つ先生との関係の構築や研究費を取ってくるために受けのいい研究をする必要が出てくると肌で感じ、私はそれが嫌でした。
他の理由は、民間企業で働いた方が生活の保障があるからです。
私は研究も続けたかったのですが、結婚して子ども育てたいと学生時代から思っていました。
妊娠して出産すると最低でも1年は研究を進めることが難しいと予測できます。その間、企業に勤めていれば育休制度を使い、仕事復帰が約束された状態で職場を離れることができます。
また、民間企業に勤めた後で、大学に戻りたいと思えば戻ることもできるので、民間企業に就職してどうしても合わなかったり大学に戻りたいと思ったら、そのときに大学教員の道を選ぼうと思いました。
大学に戻るのは簡単ではありませんが、不可能ではないので私は選択肢の1つに入れてもいいと判断しました。
なので、将来は大学に戻るかもしれないけど、現時点では民間企業に就職することが私のライフプランの中では最適解だと結論を下し、民間企業の研究職への道を選びました。
理系女子が民間企業に就職して感じたメリット・デメリット
実際に、博士として民間企業に就職した理系女子目線で、大学ではなく民間企業で働くことのメリットとデメリットをお話しします。私は、就職後に結婚出産をしているので、将来は家庭を持ち子どもを育てたいと考えている理系女子の参考になれば嬉しいです。
- 安定してお給料がもらえる
- 任期がなく定年まで働ける
- 週休2日制で有給制度があり平日に休むことができる
- 勤務時間の上限が決められている
- 産休や育休制度の他に、子どもの誕生日などに休みを取ることができる
- 大学の専攻が異なる人たちと接点ができるので、人脈の幅が広がる
- 社員に対する教育がしっかりしているので資料の作り方や上司との関わり方などが学べる
- 億単位で規模の大きな仕事ができる
上記4点は当たり前のように感じますが、大学に残ると運良く助教授になれたとしても数年後に迫る任期に怯えながら生活することになります。
世界で1番、世界で初めて、でなければ論文を書くことはできませんので、週末はゆっくり休むということも難しいです。たいてい、装置の空き時間を見て実験室に行く人がほとんどです。
理系女子の場合は30代で出産したいと考えると、大学での研究との両立はかなり厳しいものになります。
残念ながら、今の制度ではよほどご自身に体力があるか、夫をはじめ周囲の理解と助けを借りられる人でなければどちらか一方を選ぶことになると思います。
少なくとも私は妊娠中はつわりがひどく、まともに仕事をすることはできませんでした。
こういうとき、チームで仕事を進める会社だと周囲に助けられながら仕事を進めることができるので、とても有り難かったです。
- 労働時間に制約がある
- 雑務や会議が多く、研究に使える時間が少ない
- 何かをするときには上司の許可が必要なためアイディアを思いついてから実行までに時間がかかる
働く時間に制限があるというのはメリットでもあり、デメリットにもなり得ます。
例えば、新しいデータがどんどん出ていて早くまとめたいと思っていても、私の会社では22時には帰らなければいけません。
また会社だと形式的な会議や工場のトラブル対応など研究以外のことに時間を割かれたり、ちょっとした実験でも上司や部長の印鑑をもらう必要があり正直煩わしいです。
もちろん、安全上のことなどもあり仕方ないのは承知ですが、もう少しスピード感を出せればと思ってしまいます。
自由という面では、大学に残った方が民間企業で働くより優位です。
理系女子が民間企業で3年間働いて得た結論
私は、就職して2年目に結婚、3年目に出産し育休を1年半取得しました。
仕事復帰後はフルタイムで研究員として働く予定です。
会社員ならではの不自由さもありましたが、妊娠出産や子育てをしたい女性にとってはブランクがあっても仕事に戻れるという安心感のある民間企業への就職をおすすめします。
私自身、育休を取得してもまた研究職に戻れることが確約されているので、仕事や生活のことを気にせず育休中は子どもとの時間を存分に楽しむことができています。
就活サイトには載ってない博士の就活法
ここまで厳しい現実を突きつけてきましたが、私の知る限り博士号を取得したことで就職できなかったという人は1人もいません。
もちろん、理系女子の先輩もいます。
また博士ならではの就職の仕方もあるので、博士の強みを活かした就職活動をしましょう。
理系女子の就職先の見つけ方
- 企業の採用ページで「博士の初任給」が記載されている企業を探す
- 専攻が似ている分野の他研のHPで博士の就職先を調べる
- 大学の就職支援制度やOBに相談する
博士の就職は修士までとは異なるので、一般的な就活サイトに登録するよりも自分で博士の採用に積極的な企業を探す方が早いです。
企業へのアプローチ法は普通にエントリーシートを提出してもいいのですが、博士の場合は経団連の就職スケジュールに従う必要がなく早期採用に積極的な企業も多いので個別に問い合わせることをおすすめします。
次に紹介する大学の就職支援制度やOB経由で就職したい企業に連絡を取る方法もあります。
特にOBはとても親身になって相談に乗ってくれるので、興味のある会社に就職している先輩がいるか一度確認すると良いです。
\理系女子は合わせてチェックしたい!/
- なでしこ銘柄
- 新・ダイバーシティ経営企業100選/100選プライム
- くるみんマーク・プラチナくるみんマーク
- えるぼし
社員さんの名刺を見て、これらのマークが記載されている企業は女性の採用に積極的です。
マークに年号も書かれているので、合わせて確認しておきましょう。「今」どうなのかが分かります。
理系女子に追い風!大学の制度を活用した就活法
大学では博士の学生のために就職支援を行なっています。
大学側も実績を出したいので、親身になって相談に乗ってくれますし、何より今は女性の社会進出を後押ししてくれる時代なので、理系女子は有利です!
※大学ごとにサポート内容が異なるので、詳しくは自分の所属する大学のHPもしくは学生支援に問い合わせてください。
ここでは、私が実際に利用した就職支援の内容と感じたメリットやデメリットを紹介します。
民間企業へのインターンを利用するメリット・デメリット【体験談】
大学を通して個別に興味のある企業に連絡を取り、インターンを受け入れてもらえれば就職活動の選考とは関係なく企業で働くことができる制度です。
自分の行きたい、興味のある企業にインターン生として行くことができるので、とてもオススメです。
大学が行っている制度ということもあり、指導教官からの理解も得やすかったです。
- 大学を通して企業と連絡を取りインターンの受け入れ先を探す
- 選考とは関係なく、興味のある企業にインターン生として行くことができる
- インターン期間は自由に決められるが2ヶ月ほどと長期になる
- インターン期間中は大学から給料が支給される
インターン制度については大学ごとに異なるので、利用したい場合は必ず所属する大学の制度を確認してください。大学の就職支援室または研究科の事務に聞くと教えてもらえますし、HPでも見ることができます。
- 一般ではインターンの募集がない企業に行ける
- インターンの時期と期間の希望を出せるので研究の進み具合に合わせて日程を調整できる
- インターン期間が長いので、インターン先の企業の様子がよく分かる
- インターン中に上手くアピールすれば採用確率が格段にアップする
- インターン期間中に大学から給料がもらえる
最大のメリットは企業が募集しているものと違い、自身の研究計画に合わせてインターン時期や期間を調整できることです。
私は、学外の装置での測定予定があったので被らないように日程をずらしてインターンに行きました。
- インターン期間が長いので研究との両立が難しい
- インターン先を決める際に大学の就職支援担当者とのやり取りに時間がかかる
- インターン先でのアパート契約や生活用品を揃えるのに手間とお金がかかる
インターン先を探すところから始まり手続きにも時間を要します。
インターンに行った結果、学位取得が間に合わなかったとならないように気を付けてください。
学内の就職支援サポート制度でインターンを利用【理系女子の体験談】
博士2年時に2ヶ月ほど制度を活用してインターンに行ってきました
結論から言うと、インターンに行くことで就職できないかもという不安が払拭されたので、行ってよかったです。
インターン先で真面目に仕事に取り組んだおかげで、就職担当者や役員の方に気に入られ、
ぜひうちに来てほしい
面接に来てくれたら採用する!!
と言っていただくことができました。
また、就職担当者や役員の方の話を聞くことで、企業が博士に何を求めているのか生の声を聞くことができたのも大きな収穫でした。
インターンに行く前は企業が博士に求めるのは、即戦力になる専門性だと思ってたので、基礎研究をしている私は自分の専門を就職にどう活かせばいいのか分からず困っていました。
しかし、実際にインターンに行って社員の方と話すことで、企業が博士に求めるのは
- コミュニケーショ能力
- プレゼン能力
- 結果を論理的に考察する力
- 論文を書いたことがあるという経験
です。
特に論文を書いたことがある経験というのは修士まで学生との大きな違いだと感じました。
専門性については就職した先で勉強すれば誰でも身につけられるので、そこまで重視していないとのことでした。
したがって、博士の学生は大学では専門性を身につけ論文を執筆しつつも、柔軟さは失わず企業ではまた新たに勉強し直せばOKということです。
長期インターンに行くと、
- 企業の生の声が聞ける
- 就活のアドバイスを直接もらえる
- 企業とのコネを作ることができる
ので、おすすめです。
研究との両立については、私は就業時間後や週末にパソコンを持参してデータを整理したり論文を書いていました。
インターンに行っていた間は定時上がりだったので、意外と論文を書く時間も作れました。
大学のOBからの紹介を活用する
続いて、OBからの紹介で就職した方法を紹介します。
就職活動の時期になると学士や修士の学生向けに研究室のOBが会社の説明に来ます。
そのときに一緒に参加させてもらい、行きたい企業があればOBを介して就職したい旨を伝えます。
博士向けの採用活動をしている企業はないので、学士や修士の学生向けにOBが研究室訪問で来た際には自ら積極的に働きかけ企業との繋がりを持ちましょう。
学生時代を共にしたとかでなくても、OBは親近感を抱いてくれるので力でになってくれますよ。
私は修士向けに開かれた学内の説明会に参加後、懇親会にも出席しOBにしっかり覚えてもらい、就職活動時には専属のリクルーターになってもらいました。
リクルーター自身も博士の採用を担当するのは初めてとのことで、人事に連絡を取りながらとても親身になってアドバイスをもらいました。
OBとの縁をつなぐことで、コネで入社することは難しいですが、行きたい企業が
- 博士を採用しているのか
- 博士の就活スケジュールや採用条件
などの情報を教えてもらえます。
博士の採用情報については大手企業であってもHPに記載がない場合も多く、以下にして情報を集めるかが大事になってきます。
博士の採用ルートやスケジュールは企業によって異なるので、自分で行きたい企業と連絡を取る必要があります。
企業によっては修士までの学生と同時に面接等を行うところもありますが、私が就職したところは完全に別ルートでした。
私は結局、このOBからの紹介を通じて出会った会社に就職しましたが、この会社は
- なでしこ銘柄
- 新・ダイバーシティ経営企業100選/100選プライム
を持っていました。
さらにライバル会社も女性の採用に積極的だったのも理系女子である私が採用されるのに優位に働いた可能性もあります。
まとめ
博士の就職は何より、自分で情報を掴みに行くことが大切です。
そして、理系女子は「女性枠」を狙って就活することがポイントです。
はっきり言って、学士や修士の学生と同じように就職サイトに登録したり、ネットで採用ページを見ても博士に必要な情報はほとんど落ちていません。
なぜなら、博士と一口に言っても、企業と共同研究している工学系の人と企業で応用できないような基礎研究をしている理学系の人とでは就職活動の仕方も異なるからです。
私は理学研究科なので、企業との接点は全くありませんでした。
でも大学の制度を活用したりOBに働きかけることで、希望の企業に就職することができました。
博士だから、女性だから、就職できないということはありません。
まずは一歩、自分から行動してみましょう。